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東京高等裁判所 平成9年(ラ)1385号 決定 1997年8月08日

抗告人

徳原栄輔

右代理人弁護士

坂巻國男

相手方

山本英勝

主文

一  原決定を取り消す。

二  本件担保取消しの申立てを却下する。

三  裁判費用は、原審の分は相手方の、抗告審の分は抗告人の負担とする。

理由

一  抗告の趣旨及び理由

本件抗告の趣旨は、「原決定を取り消す。本件担保取消しの申立てを却下する。抗告費用は相手方の負担とする。」との裁判を求めるというものであり、その理由は、別紙「抗告の理由」記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

記載によれば、亡原イチ(以下「イチ」という。)は、平成二年六月二二日付けの債権者を抗告人、債務者を原龍三とする三〇〇〇万円の金銭消費貸借(以下「本件消費貸借」という。)につき、連帯保証する旨の意思表示(以下「本件連帯保証」という。)をしたことはなく、その所有する別紙物件目録記載の土地建物(以下「本件土地建物」という。)につき設定された別紙登記目録記載の登記(以下「本件登記」という。)に係る根抵当権(以下「本件根抵当権」という。)は無効であるとして、横浜地方裁判所に対し、抗告人の申立てに係る本件土地建物に対する同裁判所平成三年(ケ)第二〇三号不動産競売事件の停止と抗告人の本件抵当権の実行禁止を求める競売手続停止等仮処分を申し立て(平成四年(ヨ)第七二〇号事件)、相手方が第三者として三〇〇万円の保証(相手方が株式会社東京銀行横浜支店との間で右金額の支払保証委託契約を締結する方法による保証)を立てた上、平成四年八月一〇日イチの申立てを認容する旨の仮処分命令を得たこと、イチは、右仮処分事件の申立てに先立ち、同裁判所に対し、右仮処分事件の本案訴訟である根抵当権設定登記抹消登記手続請求訴訟(平成二年(ワ)第一九六一号事件)を提起していたところ、平成五年三月二五日死亡し、原太市及び蔀静江が相続により(ただし、限定承認をする旨の申述をしている。)イチの権利義務及び訴訟手続を承継したこと、同年六月二八日同裁判所において右両名の請求を認容する旨の判決の言渡しがあったが、抗告人は、右判決を不服として東京高等裁判所に控訴したところ、平成六年七月一九日、同裁判所において原判決を取り消し、右両名の請求を棄却する旨の判決の言渡しがあり、右判決は上告審の最高裁判所において維持され、平成七年一月一九日確定したこと、そして、右不動産競売事件は平成九年五月二八日終了したこと、そこで、相手方は、右仮処分事件についてイチの承継人の代理人として、その申立てを取り下げた上、横浜地方裁判所に対し、自己の提供した保証につき、民訴法一一五条三項の権利行使の催告及び担保取消しの申立てをし、同裁判所は、抗告人に対し平成九年六月一八日到達の催告書をもって、その送達の日から一〇日以内に訴え提起等の方法により権利を行使するよう催告するとともに、権利を行使したときは、右期間満了の日から二日以内に訴状等の写しを付けた受理証明書を添付し、権利を行使した旨の上申書を提出するように連絡したこと、同裁判所は、右期間満了の日(同年六月三〇日)から二日目の同年七月二日、担保取消決定をし、右決定は同年七月三日抗告人に送達されたこと、抗告人は、同年七月七日、本件抗告を申し立て、翌八日東京地方裁判所に対し、イチの相続人の原太市及び蔀静江を被告とする損害賠償訴訟を提起し(同年(ワ)第一三八五一号事件)、同日これを証明したことが認められる。

ところで、民事保全法四条二項が準用する民訴法一一五条三項によれば、訴訟の完結後、裁判所が担保提供者の申立てにより、担保権利者に対し一定の期間内にその権利を行使すべき旨を催告し、右期間内に担保権利者が権利行使としないときは、裁判所は、担保取消しにつき同意があったものとみなして担保取消決定をすることができることが明らかであるが、右期間経過後であっても、担保権利者が右担保取消決定の確定前に権利行使をし、これを証明した場合には、いったん担保取消しに同意したものとみなされた効果は消滅するものと解するのが相当である。

本件についてこれをみるに、右事実によれば、抗告人は、原決定の確定前の平成九年七月七日に本件即時抗告を申し立て、翌八日に右損害賠償請求訴訟を提起した上、これを証明したのであるから、本件の担保取消しに同意があったものとみなしてした原決定は失当となったものというべきである。

三  よって、原決定を取り消した上、本件担保取消しの申立てを却下し、裁判費用の負担につき、民訴法九六条、八九条、九〇条により、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官鈴木康之 裁判官丸山昌一 裁判官小磯武男)

別紙抗告の理由

一、抗告外原イチは、抗告人に対し、根抵当権設定契約をなし、その旨の登記をしたのに、これを故意に否認し、本件競売手続停止等仮処分命令申立事件を提起し、被抗告人が抗告外原イチに代わって第三者供託をしたものであり、右仮処分命令申立は違法、不当である。

二、抗告外原イチは、右根抵当権が無効であると主張して、横浜地方裁判所平成二年(ワ)第一九六一号根抵当権抹消請求事件を提起し、その勝訴判決を受けたが、これに対する控訴事件(東京高等裁判所平成五年(ネ)第二七〇二号)につき、逆転敗訴し、これに対する上告事件(最高裁判所平成六年(オ)第二〇七七号)で、上告を棄却され、右控訴審判決は確定した。

三、以上のように、抗告外原イチの本件競売手続停止等仮処分命令申立は、違法、不当であり、その為、抗告人は損害を蒙ったので、抗告外原イチの相続人ら(抗告人外原イチは、平成五年三月二五日死亡)に対し、近く損害賠償の訴訟を提起する予定である。

四、よって、本件抗告に及んだものである。

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